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伝道標語
諸人悉く是れ縛する者なし何ぞ新たに脱するあらんや

現在シリアでは五年前から内戦状態にあり、人々の不安な心が容易に想像出来ます。

そんなシリアには、一つの美しい伝統があります。それは、代々受け継がれてきた日本の有田焼のドンブリを、母親が嫁いでいく娘に花嫁道具として持たせることです。江戸時代初期に南蛮貿易が盛んな頃、色鮮やかな有田焼がこの地に受け入れられたようです。このドンブリの使い方は、大切な来客の際、ドンブリにおもてなしの料理などを出して振るまうことです。代々受け継がれるドンブリは、特に今のシリアの人にとっては、平和な生活の象徴であるのかもしれません。 シリアの諺に「才能ある人は、この器(ドンブリ)のようにどこをたたいても響く」とあります。

確かに有田焼のドンブリをたたいた音色は、お仏壇のお鈴のように澄んだ美しい音がします。 シリアの人々にとって、この安らぎの音色を醸しだす、有田焼の美しいドンブリは、幸福な家庭生活を送る人としての成長を願う親からの掛替えのない贈り物として、受け継がれているのです。

いつの時代も嫁いでいく娘には、不安も沢山あることでしょう。人生には幸福な時ばかりではありません。辛い時、苦しい時もきっとあります。そして悩みや苦しみの原因は自分自身の思いどおりにならない不安から生じるものです。

その事が母親には経験上良く分かっているのです。母親が娘に伝えたい事は、美しい器を通して、誰かのために「おもてなし」ができる心を大切にしてほしいという事ではないでしょうか。 シリアに再び平和が訪れた時、戦乱で心縛られたままでなく心の平和を取り戻すためにも、母と娘に受け継がれる誰かのための「おもてなし」の伝統を何とかつないでいただきたいと祈るばかりです。

人は特殊な環境に左右されるだけでなく普段においても、自ら生き方に縛られるような「こだわり」を持ち、自分の思い通りにならない事に遭遇した途端、パニックとなるくらい不安を感じることがあります。

そして不安な心をすぐにも解消しようと、他人に何とかして欲しいと思うもの。

かの一休禅師の有名なとんち話に「屏風の虎退治」があります。

一休さんは足利義持将軍に「屏風の虎が、夜に出歩いて、悪さをするか退治してくれないか?」と頼まれます。「分かりました。私は前で待ちますので、将軍様、虎を追い出して下さい。出て来たら、退治します。」と言って、将軍の難題を退けました。

この話は、将軍自身の不安な心を虎に見たてているのです。

いかなる権力者であれ、揺れ動く心と向きあうのは誰に頼るでもない結局自分自身である、との教示が物語の奥底に潜んでいます。

本来、不安な心は突き詰めれば自分で解決しなければならない問題です。

冒頭の瑩山禅師さまのお言葉で「誰しも、何ものにも縛られてはいない。ならば、新たに抜け出ることなどあろうか。迷いや悟りはもとより無く、束縛や離脱からも離れているのである」と、心の不安は、本来実態のあるものでないと示されます。

生きていく上で、どんな環境にさらされるかもしれません、どんなこだわりで自身を縛るかもしれません。しかし、その時に、不協和音生じさせることなく有田焼の美しい音色奏でる自身でありたいもの。

そのためにも自分中心を離れ、「おもてなし」のように他者のために周囲のために今ここで何をなすべきか、日常底の点検が必要です。

ひび割れていない自分であり続けるためにも、身心の調いの習慣は大切なのです。

平成28年12月(新潟県霊源寺 川原敏光)

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