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伝道標語
種々の奇特、種々の異相、悉く是れ念息不調の病なり

今年の五月に、TVのスポーツ番組の収録がありました。これは、日本で初めてというラグビーのワールドカップ開催を前に、国内では今一なじみのうすいラグビーという競技を、より多くの人びとに理解していただきながら、大会をより一層盛り上げていこうという意図 いと のもと、日本代表選手の方たちが、いろいろなことにチャレンジするという企画の一環でした。

実際に日本代表の二名がご本山に来られて、坐禅を行じたり、写経をしたり雑巾がけをしたりと、禅の修行を通じて「メンタル(精神面)を強化する」という設定でした。特に一人の選手は、以前の国際試合において、ゴールをねらった大切なフリーキックを外してしまい、結局、その試合に負けてしまったという苦い経験から、どんな状況におかれても冷静にプレーできる、まさにメンタルをきたえて良い状態に仕上げていきたいということでした。

しかし、私はその時、「メンタルを鍛える(強化する)」という言葉に、なんとなく違和感を覚えました。確かに、スポーツの世界においては、厳しい練習に耐えながら、メンタルを鍛えるというのがあるのかもしれません。けれども、ご開山・瑩山禅師さまのみ教えの中には、メンタルを鍛えるために修行をするというお示しはどこにもありません。まして坐禅を行じてメンタルを鍛えるなどということは決してありません。むしろ坐禅を通じて何か特別な力を獲得したと錯覚することは、「念息不調の病なり(心や呼吸が調っていない病である)」とおしゃっておられます。また、そうした病が起きた時には、心を両ひざの上に置きなさいと、具体的にお示しになっておられます。

そこで、私は「メンタルというのは鍛えるものではなく、調ととのえるものだと思います」と申し上げました。そうして、まずは身体と呼吸をしっかりと調えることの重要性をお伝えしました。

ところが、数日後に放送された番組を見ましたところ、「メンタル強化」という字幕が、画面右上に大きく掲示されておりました。番組制作の主旨からいえば仕方ないことかもしれませんが、せっかくご本山での修行をご紹介いただきながら、テレビをご覧の方々に、かえって誤ったメッセージを送ってしまったようで、ちょっと残念な気持ちになりました。

ご開山さまは、「心が落ち込んでいる時には心を髪際はっさい(眉毛の上約三寸のところ)や眉間みけん(両眉の間)に置きなさい。また心がざわついている時には、心を鼻端びたん(鼻の先)や丹田(へその下約一寸五分)のところ」に置きなさい」と、坐禅中における心の置きどころを、こと細かくお示しになっておられます。そうして、身を調え、息を調え、心を調えることの大切さを説いておられます。「調身ちょうしん調息ちょうそく調心ちょうしん」、これが曹洞宗の坐禅です。

繰り返しになりますが、メンタルを鍛える(強化する)ということを一概に否定するのではありません。ただ、それが坐禅を行じることの目的ではないということです。何か新しい力を身に着けるということではなく、むしろ本来の自己に立ち返ることこそが坐禅の眼目であります。 ご開山さまの懇切丁寧なみ教えをしっかりと学びながら、まちがいのない坐禅を、ともに修行してまいりたいと思います。

令和元年11月(大本山總持寺 単頭 柴田 康裕)

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