数年前にお亡くなりになられました永六輔さんが、生前ある番組の中で次のようなお話をされました。
八十歳になる男性が、お孫さんと一緒にお風呂に入りながら、「お前は将来、何になりたいか」と聞きました。
お孫さんは、「ぼくは宇宙飛行士になりたい」と答えました。
すると今度はお孫さんが、「おじいちゃんは将来何になりたいの」と聞きました。
そう聞かれて、その男性はどことなく寂しくなってきました。
「この歳で、一体自分に何がやれるというのか。」
そう思うと、何だか居たたまれない気持ちになってきたというのです。
そこで、自分は小さい頃、何になりたかったのか思い出してみました。小学生の時、一度だけ父親にサーカスを見に連れて行ってもらったことがありました。その時の華麗な空中ブランコのショーを見ながら、「ぼくもやってみたい」と思ったそうです。そのことを思い出したその男性は、早速、空中ブランコをやらせてもらえるところを探しました。しかし、八十歳の高齢者を受け入れてくれるところなど、どこにもありません。
「やっぱり、この歳ではダメか。」
半分あきらめていたその時、友人がインターネットを使って、ある施設を探し出してくれました。そこでは、かなりの高齢者であっても受け入れてもらえそうだというのです。
祈るような気持ちでその施設へ連絡したところ、「この施設で、空中ブランコを成功させた最高齢は、八十五歳の女性です」という答えが返ってきました。それを聞いたその男性は、急に元気が湧いてきて、お孫さんを連れてその施設に行き、そこで幾つかの訓練を受けた後、お孫さんの見ている目の前で、見事に空中ブランコを成功させたというのです。
永さんは、このお話から三つの大切なことを学ぶことができるとおっしゃっておりました。
まずは、人間幾つになっても、やる気さえあれば必ずやり遂げることができるということです。確かに、百歳になってから、百メートル走で十秒を切るということは無理かもしれません。しかし、百歳になっても陸上競技を続けることは可能です。
次に、インターネットの活用が、その人の活動の幅を大きく広げるという事実です。幸い友人にインターネットを使う人がいたからこそ、高齢者であっても受け入れてくれる施設を探し当てることができたのです。それがなければ、もしかしたら途中であきらめていたかもしれません。確かに、インターネットによる犯罪やトラブルがないわけではありませんが、使い方さえ間違えなければ、大いに活用すべきものです。
そしてもう一つ、一番大切なことは、八十歳にして初めて空中ブランコに挑戦し、それを見事に成功させたという姿を、お孫さんに見せたということです。人間は誰でも必ず歳をとります。そのお孫さんも、いずれは歳をとっておじいさんになります。その時、「自分のおじいちゃんは、八十歳の時に初めて空中ブランコを成功させたんだ」という思い出が、どれほどの勇気と希望を与えることでしょう。自分もきっと何かできると思うに違いありません。
ご開山様は、「目の前の山よりも、さらに高い山があることを知って、途中で止めてしまってはならない」とおっしゃっておられます。ご自身も、お亡くなりになるその日まで、誓願を持ち続けておられました。
「もう、これで終わりだ」というのは、まさに人生を終える時です。それまでは、誠心誠意、一歩一歩怠ることなく、日々の精進を重ねてまいりたいと思います。